9月19日 台風前の江の島 ― 大波、救助、負傷、そして頭痛。なかなか厳しい一日
9月19日、土曜日。
事前の予報では北風4〜5m/s。午前中は5m/sくらいまで吹く予報だった。
今の自分にとって4〜5m/sは、かなり期待できる風速だ。先週は超微風の中、2450cm²の大型フォイルで一瞬ながら浮くことができた。
ならば今日は、もう少しまともに飛べるはず。
ただし、一つ気になることがあった。
台風が近づいている。
波予報を見ると、うねりは1m程度。いつもの江の島より明らかに大きそうだ。
それでも風は4〜5m/s。
「今日は久しぶりにしっかり練習できるぞ」
期待しながら、9時半ごろ江の島に到着した。
風は10m/s? そして海は大荒れ
着いてみると、思ったより風がある。
体感では5m/sくらいだろうか。
ところが江の島ヨットハーバーのリアルタイム風速計を見ると、なんと10m/s。
「えっ、10m/s? 逆に強すぎないか?」
少し心配になりながら海を見ると、今度は波がすごい。
台風の影響なのだろう。普段より明らかに大きなうねりが入り、サーファーもいつも以上に多い。
ただ、波が大きい割には形があまりきれいではない。
きれいに盛り上がって長く割れていくというより、うねったと思ったら突然「ドン!」と崩れる感じだ。
「これ、SUPサーフィンでも乗りにくそうだな」
クラブで道具を準備していると、ちょうどメンバーのKさんがサーフィンから戻ってきた。
波が大きいのにどうして辞めちゃうのですか?と聞くと、
「波は大きいよ。これからもっと大きくなると思う。しかし形が悪い。あれは危ないから、もうやめた」
なるほど。
そのときは「そんなに危ないものかな」と、正直そこまで実感していなかった。
しかし後になって、Kさんの言っていた意味を自分の身体で理解することになる。
2450か2000か、かなり迷う
今日はフォイル選びにも迷った。
風はありそうで、なさそうでもある。
波は大きい。
小さい2000cm²にするか、それとも先週驚くほど低速で浮いた2450cm²にするか。
結局、2450cm²の大型フォイルを選んだ。
風が弱かった場合でも、できるだけフォイリングできる方を優先した。
ウィングは6㎡と5㎡の両方を持っていく。
準備には30分ほど。
その後、2階の海が見える休憩スペースから10〜20分ほど海を観察した。
やはり波は大きい。
しかし沖を見ると、意外なほど風が吹いている感じがしない。
そのとき、一人のウィングフォイラーが出艇しようとしているのが見えた。
これが大変そうだった。
上級者でも20分。フォイルで大波を越える難しさ
波が崩れるたびに、ボードごと岸へ押し戻される。
進んでは戻される。
また進んでは戻される。
これを延々と繰り返している。
ウィングフォイルの厄介なところは、ファイルを取り付けるマスト(フィンのようなもの)が80cmほどあることだ。
ウィンドサーフィンなら、水深が30cmもあればボードを浮かべ、セイルを立て、その力を使って沖へ出ていける。
ところがフォイルは違う。
ファイルのつながるマストが長いので、胸くらいの水深まで行かなければボードを普通に浮かべられない。
しかし今日のような日は、その胸までの水深こそ、波が思い切り崩れる場所なのである。
しかもボードの下には大きなフォイルが付いている。フォイルは刃物のような形状である。
波に巻かれて暴れれば、自分の身体に当たる危険がある。前に首筋にフォイルが当たってヒヤッとしたことがある。
頸動脈を切断すれば即死してしまう。
また、波にまかれてフォイルがウィングに当たれば破裂する可能性もある。
見ているだけでも怖い。
結局その人は、20分くらい格闘してようやく沖へ出た。
「初心者なのかな」
と思っていたら、沖へ出た途端、普通にフォイリングを始めた。
かなり上手な人だった。
その人でさえ20分。
「自分は、本当にあそこを越えられるのか?」
急に不安になってきた。
まずSUPで偵察
それでも、せっかく来た。
海の家もほぼ解体され、撤去工事の車もなくなったので、水辺まではスムーズに行ける。
夏のブイもなくなり、マリンスポーツが一か所に集中することもなくなった。
ただし今日は波が大きいためか、サーファーが非常に多い。
まずは海の状況を確認するため、いきなりウィングではなくSUPで沖へ出てみることにした。
沖へ出て分かった。
ものすごくガスティーだ。
吹くときは突風のように吹く。
ところが止まると、ほぼ無風。
北風なので多少ガスティーになるのは分かるが、今日はいつも以上に極端だ。
台風の影響なのかもしれない。
「これはウィング、難しそうだな……」
SUPの上に座り、しばらく沖の様子を観察することにした。
あれ、あの人……流されてないか?
沖には二人ほどウィングフォイルをやっている人がいた。
一人は普通に行ったり来たりしている。
ところが、もう一人の様子がおかしい。
立とうとする。
落ちる。
また乗る。
また落ちる。
ほとんど前へ進んでいない。
それどころか、見ているうちに少しずつ沖へ流されているように見える。
今日はオフショア。
これはまずいんじゃないか。
自分はSUPなので、その人のところまで行くこと自体はできる。
ただ、自分自身もまだウィングフォイルでは初中級レベル。海上で人を救助できるような技術があるわけではない。
そうはいってもその人より上手にできるはずで、SUPと交換してあげて自分はウィングフォイルで陸まで戻る可能性を考えたが、
その人がSUPを漕ぐのに慣れてないと、SUPでも流される可能性があるし、なかなか難しい。
どうしようかと思っていると、少し離れたところにライフセーバーらしい3人組が見えた。
レスキューボードのようなものを使ってトレーニングしている。
「そうだ、あの人たちだ」
SUPでそちらまで漕いでいき、
「あそこにウィングフォイルの人がいるんですけど、かなり流されて苦労しています。サポートしてもらえませんか」
と伝えた。
3人も彼の状況を確認して、「承知しました」とすぐに向かってくれた。
その頃には本人もウィングで戻るのを諦め、ボードに寝そべって手でパドリングしていた。逆風なのであまり進まない。
そこへ3人が到着。
かなり時間はかかったものの、付き添いながら無事に岸へ戻っていった。
最後まで見届けて、ひと安心。
直接助けたわけではないが、少しは役に立てたかなと思う。
せっかくの大波。SUPサーフィンもやってみる
一度岸へ戻った。
せっかく今日はこれだけ波がある。
「ウィングの前に、少しSUPサーフィンをやってみよう」
これが、なかなか大変だった。
うまくタイミングが合えば乗れる。
実際、1〜2本はそれなりに乗れた。
ところがKさんが言っていた通り、波の形が悪い。
タイミングを外すと、後ろから大きな波が突然、
ドーン!
と崩れてくる。
そして一度、かなり大きな波にまともに巻かれた。
自分はウィングフォイルと兼用なのでライフジャケットを着ている。
一般的なサーフィンではライフジャケットを着けずに行う人が多いが、今日はその浮力の影響もあったのか、波の中でなかなか自由になれない。
かなり長く揉まれたように感じた。
一瞬、
「これはちょっとまずいな」
と思った。
本当に限界というほどではなかったが、久しぶりに海で怖さを感じた瞬間だった。
身体もあちこち打ち付けた。
そして、そのときは気づかなかったが、右手の中指もどうやら突き指していたらしい。
後になって痛みが強くなり、曲げるのもつらくなった。
7月は右手の小指。
今度は右手の中指。
「なんで毎回、どこか怪我するんだ……」
さすがに少し嫌になる。
それでもウィングフォイルへ
普通なら、ここで帰ってもよかったのかもしれない。
しかし今日はウィングフォイルをやりに来た。
SUPを置き、今度こそ2450cm²+6㎡で海へ出る。
問題は、やはりショアブレイクだった。
波のタイミングを見ながらボードを運ぶ。
来る。
待つ。
崩れる。
少し進む。
また来る。
フォイルを波に持っていかれないように気をつけながら、なんとか胸くらいの深さまで進む。
かなり危なっかしかったが、どうにか突破。
沖へ出た。
「よし。ここまで来れば、あとは乗るだけだ」
と思った。
ところが――
今度は風がない。
吹けばオーバー、止まれば無風
6㎡のウィングは、風がなければ重い。
しかも今日は大きなうねりがある。
立つ。
風が抜ける。
バランスを崩して落ちる。
また立つ。
また落ちる。
これを2〜3回繰り返す。
そして突然、風が来る。
今度は強すぎる。
吹けばオーバー。止まればほぼ無風。
これでは全然リズムが作れない。
正直、面白くない。
それでも一度、ちょうどいいブローが入った。
ウィングに力が入り、ボードが走る。
そして、
フワッ。
2450が持ち上がった。
ほんの短い時間だったが、やはり浮けば楽しい。
「そうそう、これをやりに来たんだよ」
今日初めて、少し気分が上がった。
ところが今度は、突然の頭痛
そして、その直後だった。
急に頭がかなり痛くなってきた。
このストレスフルな状況の中、ようやく浮いたので興奮して血圧が上がったのかもしれない。
過去に感じたことのないレベルの痛みだった。
かなりの沖での強い頭痛。しかも今日はオフショア。
ここで動けなくなったらどうなる?
海に落ちて意識を失えば、そのまま溺れるかもしれない。
あるいは風に流され、沖へ漂流してしまうかもしれない。
さっき流されていたウィングフォイラーを見たばかりである。
「今日はこれ以上はやめよう。もう帰ろう」
残念だが命のほうが大切だ。迷わず練習終了としてなんとか岸へ戻った。
今日は、海に負けた
結局、今日は何だったのだろう。
期待していた4〜5m/sの風は、実際には極端なガスティー。
台風のうねりで波は大きく、しかも形が悪い。
SUPサーフィンでは大波に巻かれ、右手中指を負傷。
ウィングフォイルでは苦労して沖へ出たものの、まともに飛べたのはほんの一瞬。
そして最後は突然の頭痛で撤収。
かなり残念な一日だった。
でも、朝にKさんが言っていた、
「今日は波の形が悪い。怪我するリスクがあるからやめた」
という言葉。
終わってみれば、まさにその通りだった。
サーフィンの経験のある人には、波を見ただけで分かるものがあるのだろう。
風速や波高という数字だけでは分からない「今日は危ない」という海の表情。
今日一番勉強になったのは、フォイリングの技術ではなく、もしかするとそこだったのかもしれない。
それでも、少しだけ良かったこと
もちろん悪いことばかりでもなかった。
沖へ流されていた人に気づき、ライフセーバーにつなぐことができた。
2450cm²では、今日の難しいコンディションでも一度はフォイリングできた。
そして何より、自分自身も「これはまずい」と思ったところで練習を切り上げ、無事に戻ってこられた。
台風直前の海で、今日はできただけでもよかったのかもしれない。
連休なので本当はしっかり練習するつもりだったが、明日、明後日は大雨の予報。
最終日にもう一度来られるだろうか。
小指がようやく治りかけたと思ったら、今度は中指。
クラゲの次は大波。
なかなか普通に練習させてもらえない。
次回こそ、普通の風、普通の波で、普通にフォイリングしたい。
今の望みは、それだけである。

